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お、お待たせしました。クリスマス最終話です。
今日年末じゃん!大晦日じゃん!
でもいい、とりあえずおめでとう!



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 ゴツ、ゴツ、ゴツ、と重い足音を立てながらゾロは歩いていた。足音が心境を表しているならば「あーあ」である。あーあ、なくなった。あーあ、どうすんだこれ。子供のように不貞腐れたいところだが、一晩の楽しみがなくなったからといって、剣士たるものあからさまに落胆はできない。別に向こうから来なくたってこっちから行けばいい話だし、誘って始まるも誘われて始まるも最終的には一緒だし、別に構わない。構わないけれども、サンジから誘ってくることなんて年に数回とないのである。サンジとてしたくないわけではないが、面子とプライドがなかなか誘う行動に至らせてはくれない。その壁を乗り越えて誘ってくる貴重な数回のうちの一回が減るのだ。残念極まりない。

 もう一つの「あーあ」を手に抱えて、ゾロは深夜の見張り台に向かった。今日の見張り番はブルックだ。明日はいよいよクリスマスイブであるため、最後の詰めに入るのだそうだ。小人サンジも今日は休暇をもらい、コックのサンジとしてパーティーの準備に取りかかっている。
 見張り台の入り口に立つと、既に床にキラキラしたものが散らばっていた。金色の紙吹雪やもみの木の葉のようなもの、くるりと巻かれた包装紙とリボンが部屋の隅に広がっている。サンタの仕事は秘密裏に、とサンジに言って聞かされているゾロは、黒いアフロを目の端で確認だけすると、それ以上なるべく見ないようにして声をかけた。
「おい、入るぞ」
「エ?!エ!ちょ、ままま、待ってください!」
ガサガサガサと慌てて紙をかき混ぜる音がする。続いて何かが落ちる音と破ける音とブルックの小さな悲鳴が耳に入り、ゾロは上げかけた足を下ろした。一番人を驚かせる風体の骸骨は本人こそ驚き屋で、すぐに無い目を剥いて顎を外す。
「入ってまずけりゃこっち来てくんねえか。用がある」
「あ、は、ハイ!ちょっとお待ちを・・・」
フランキーも相当大きいが、ブルックはさらに縦に大きい。いそいそとやってきた彼は中を見せるわけにいかないからか、立ちはだかるようにゾロの目の前でぴたりと止まった。
「・・・」
 視界がブルックの胸板でいっぱいになり、ゾロは骨だけの胸を包む黒い服のところどころに、白いつけひげが数本落ちているのを発見した。このふわふわした毛はそれに違いない。ブルックのものではないだろう。アフロに白髪が、などと言われたらどう突っ込んでいいのかフォローしていいのか分からない。
「ゾロさん?」
「・・・あー・・・」
 おそらく、こっそりとサンタコスチュームを前もって装着したのだろう彼に、自分が事情を知っていると言っていいものか。できれば言わずにおいてやりたいが。
(いや、そうすっとアレが。あの阿呆なアレが)
 剣士としてだけまっすぐ進んでいたら、味わうはずのなかった葛藤を噛み締め、ゾロははらりと落ちている白いひげをつまみ取った。頭上にあるブルックの顔を見上げ、落ちてるぞ、と言うと、ブルックはまたもかぽーんと顎を外した。
「こ、こここれはあの、」
「いやいい。分かってる」
「・・・え、そう言いますと」
「今年のサンタがお前になったのを、俺は知ってる」
「ホ」
 ブルックは小さく驚いて、おやおやおや、と興味深そうにゾロを見た。思いのほか驚きが少ない。
「それではあなたが彼の・・・サンジさんの小人さんだったのですか」
「はァ?!」
「おや、違うんですか」
「違ぇよ!」
(どうなってんだこいつらの世界は・・・!!)
 ブルックの切り返しにゾロの方がよほど驚いた。何だその解釈は。こいつらはこの広い海で顔を合わせてもいないのに、共通のルールに則って活動してるのか。
「サンタさんを知っているのは小人かトナカイだけですから」
「・・・。トナカイでもねえからな」
 全く必要じゃない、知るはずではなかったサンタ界の知識が増えていく。この困惑する気持ちを抱えているのがこの船で自分一人であり、他の誰にも言えないところが、ますますやりきれない。

「一応聞くが、大人サンタってのは」
「ああ」
「・・・・・・」
やっぱりか。やっぱり知ってやがんのか。とゾロはまた肩を落とした。しかし、続く言葉に顔を上げる。
「あれはノースの習慣ですね。ノースは現役を退いたサンタさんがたくさんお住まいですから、ノースの海域では船サンタにもサンタさんが来るという・・・」
「あ?ノース?」
「ハイ」
「・・・・・」



『俺がこんな離れちまうと、大人サンタのジジィも大変だよな』
今何言ったこいつ、という視線でゾロがサンジを見ると、サンジは「なあ?」と普通に同意を求めてきた。初めてサンタに扮したサンジと出会ったその晩のことだ。ゾロへのプレゼント配達で仕事終了だったサンタは、見張り台の縁に腰をかけた危なっかしい体制で、サンタについて少々の説明をしてくれた。その最後にぽつりと呟いたのがこれである。

『大人ジジィ?』
『お前それ単語としておかしいだろ。大人サンタだよ』
『何だそれは』
『え・・・それはお前・・・本当に知らねェの?』
サンジは呆れてぐるぐるの眉をへたりと下げた。たっぷりたくわえたあごひげをもすもすと撫で付ける様は一見サンタのようだが、脚を思い切りがに股に開き、背を丸めて煙草を吸う姿は紛れも無くサンジだった。その姿で、そんな暗黙の了解のこと聞かれると困っちまうな、という風にもじもじしている。
『まあしょうがねェか、お前は剣豪一筋だからな』
と、うんうん頷いてゾロを見つめた。そういう、普通の子供だったら持ってる何かがない、みたいな言い方すんなとゾロは心から言いたかったが、何を言っても無駄な気がした。
『あのな、大人サンタは船サンタにプレゼントをくれるサンタだ。船サンタだって、本当はプレゼント貰う立場だったかもしれないだろ?そこを配る側に回ってんだから、おつかれさんってんで、現役引退後のサンタが配りに来てくれんだよ。あ、陸地のガキんとこに行くのは現役サンタだぜ。あっちのがハードだから』
『・・・何でそんな事情知ってんだ』
『馬鹿だな、みんな知ってるよ』
柄の悪いサンタは、ふっと顎を反らして煙草の煙を頭上に吐いた。それから少し照れたように、首の後ろの金髪をかきながら笑った。
『ま、俺もジジィに聞いたんだけどさ。詳しいとこは』
『――――――』

 ゾロは何も言えなくなった。その代わり野望の他にもう一つ死ぬまでにやり遂げたいことができた。いつかあの魚の頭がついたレストランに行き、こいつのいないところであのオーナーに言う。
 子供の夢も大事かもしれねえが、相手を見て仕込んでくれ。

 一通り話が済むと、気に入っているらしいふさふさのひげを撫でつけながらサンジはじゃあな、と楽しげに見張り台を降りていった。明らかに、これから現れるはずの大人サンタを期待している。
(つまり、これは)
 働かせたくなかった頭を無理矢理回転させれば、そういうことだった。
 ゾロはこの船に乗って初めて、ブーツを脱いで足音と呼吸を殺して、明け方の男部屋に忍び入った。想像通り靴下がぶら下がっているサンジのハンモックに近づいて。
 ゾロはエロ本を突っ込んだ。



「ゾロさん?何かご用事があったのでは」
ノースだけかよ、あのオーナー教えるならきっちり教えやがれ、とゾロがぶつぶつ言っていると、ブルックが控えめに聞いてくる。
(まあでも、そんなら話は早いな)
「ノースの大人サンタからだ。今年限定な」
ゾロはぱす、とブルックの胸元に薄い雑誌を押し付けた。サンジ秘蔵のエロ本である。こいつらが同じエロ仲間で良かった。ゾロはつくづく思った。

 サンジからの指令はこれだった。
 急なサンタ交代だったから、大人サンタからのプレゼントが間に合わないかもしれない。そうしたらブルックはがっかりするだろう。この船で船サンタになった初めての年にそんなことがあってはいけない。
 来年からはきっと大丈夫だろうが、今年はお前、万一ブルックにプレゼントが入ってなかったら、とりあえずこれを入れてこい。
 そう言って、サンジはエロ本をゾロに託したのだ。サンジの靴下にエロ本を突っ込んだことは正しかったのだと、疑うことなく感じさせられた。

 しかしそう託されたものの、ゾロがこれまで生きていた中で、船サンタや大人サンタを知っている人間はサンジだけだ。ブルックも船サンタ仲間とは驚いたが、彼が大人サンタの存在を知らなかった場合、自分の枕元に今年だけエロ本があったらおかしいだろう。その場合、元船サンタのサンジにこっそり相談するかもしれない。そうすると、毎年ノースから大人サンタが老トナカイと共に来ていると信じているサンジは、真実を知ってしまう。
 それはいくら現実主義のゾロから見ても、あまりに哀れなのだった。


「グランドラインにもノースから大人サンタが来ると思ってるやつがいるんだよ」
「・・・それは」
 ちらりとエロ本をめくって、スンゴー!と感激したブルックは、ゾロがそう言うとすぐに誰かを察したらしい。また、おやおやおや、という顔をする。
「では、これまであなたが毎年?」
「・・・誰かはアホの面倒みなきゃなんねえだろ」
「・・・・・・」
 ブルックは苦々しい顔をしているゾロをじっと見つめ、そうですか、と微笑んだ。骸骨の表情は変わらない。でも確実に微笑まれたのが分かって、ゾロは居たたまれなくなって横を向いた。
「私、この船に乗って本当に良かったです」
「おう」
「サンタさんは譲れませんが、良かったらあなたも小人さんに」
「ならねえよ!」
 ヨホホホホ!とブルックは心底楽しそうに笑って、ゾロを見送った。


 ◇

 クリスマスの朝。賑やかな船はいつもよりもっと賑やかに目覚め始める。わー!やったー!ロビーン見てー!などなど、キッチンにまで歓声が聞こえてくる。

「おう、早ェな。どうした」
「目ェ覚めた」
まだ他の誰も来ていない朝のキッチンにゾロが入ると、目を丸くしたサンジが振り向いた。天気荒れねェかナミさんに聞いとくか、と呟きレタスをパリパリとむいている。

 ゾロは昨晩、白いひげに真っ黒なアフロのサンタがいそいそと現れ消えていくのを片目だけ開けて確認し、朝方やっぱりぱつぱつの靴下をはいたボトルを手に入れた。中に酒を酌み交わすための杯は入っていなかったが、これはこれでいいものだと思う。

「で?お前もプレゼントもらったか?」
エプロン姿のサンジがもう一度振り返って聞いてくる。ああ、と答えて靴下をはいたままの酒を目の前に出すと、ふーん、と顔を綻ばせた。
「俺ももらった。サンタってやつはすげェな。俺の好みを分かってる」
朝一でしっかり中を見たんだろう、中身を思い返したらしいサンジは鼻の下を伸ばした。エロ仲間の洞察力はさすがに鋭いらしい。ブルックもサンジチョイスに感激していたところを見ると、彼らは通じ合っている。
「そうそう、ブルックんとこにも入ってたぜ」
「そうか。そら良かったな」
「おう」
機嫌がいい。これは今晩ちょっと位無理してもいけっかな、とゾロがにやついていると、サンジはエプロンのポケットから何かを取り出し、ゾロにぽいっと投げた。
「うお、何だ」
片手で受け止めた小さい布袋の中身は固い。開け口を閉じてある紐を解くと、中でかつんと硬い音を立てた。袋の入り口に両の人差し指を入れてぐいぐいと開く。サンジの「必死だなァてめェは」と笑う声が聞こえるが、気にしていられない。
「――――」
 袋の中で寄り添っているのは、土を乾かしてできた濃い灰色の杯二つ。

「忘れモン。サンタの」

 顔を上げると、小人が俺んとこに置いてった、とサンジがちょっと口を尖らせて言った。
 二歩で歩み寄り、尖らせた唇をふさぐ。何度か角度を変えて唇全てを味わっていくうち、それは笑いの形になる。至近距離のままゾロは声をひそめて言った。

「他に忘れモンは?」
「さあ?」

 サンジから軽く口をつけられ、おりこうに待ってろ、とテーブルに促される。だんだんと仲間達が現れ、ゾロは受け取った小袋を腹巻に厳重にしまった。とても待てそうにないと思うのに、これを持っていれば待つことなど何でもないような気もする。クリスマスは素晴らしい。

 そうこうしているうちに全員が揃い、朝食が燦然と並ぶ食卓に今日ばかりはサンジもきちんと着席した。せーの、で声を揃える。皆の輝くような声が弾ける。

 メリークリスマス!



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今年もありがとうございました!
来年もよろしくお願いします!
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