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ホットケーキ型のキャンドルを買いました。
あまりの出来の良さに店頭でガン見してしまい、そのまま連れて帰ることに。
ホットケーキの焼き目がちゃんとついてて、それも円のフチの方って白いじゃないですか。それも再現されてて!
メープルがかかってて、三段重ねのケーキにとろーっとしたたり落ちてるのです。
で、バターも乗ってる!バターとメープルのくっついてるところもほんのり溶けてる!
重なり具合も浮き具合も、いやー完璧です。

さて、ここに身長8mmくらいのゾロサンが現れました。
ホットケーキは二人の身長の15倍くらいの高さです。
サンジが合図をすると、ゾロは先端に鉤型のおもりがついた縄梯子を、えいっと投げました。
二人はあたたかいケーキの側面を登っていきます。

途中、梯子の隙間からケーキをつまみ食いしたくなるのをこらえつつ、頂上を目指します。
いい匂いです。ものすごくいい匂いです。
卵のほっこりした香りと、時折混ざるメープルの香りに、理性を失いそうになります。
もうここで食べちゃえばいいじゃん!
でも食べられません。
下から食ってきゃいいだろ、というゾロを、そんなの邪道だ!とさっき叱ったばかりです。
ホットケーキを登っているけど、これはホットケーキじゃない、おれは梯子を昇っているだけなんだ、と目と鼻の感覚を無理矢理閉ざして、なんでこんなつらい思いを・・・とちょっと泣きそうになりながら、でもゾロにそれを悟られないよう、力強い足取りで梯子を登ります。

ようやく頂上にたどり着きました。
梯子からホットケーキ本体にうやうやしく足を降ろします。
足元はメープルシロップでつるつる滑りますが、このときのための滑り止め防止ブーツをはいていますから大丈夫。
大切なケーキの上を慎重に進み、バターとは慎重に距離を保ったまま、ここぞという焼き目の位置で立ち止まります。
バターは魅力的ですが危険です。
この幸せで眠たくなるような温度で、いつ溶け出し、四角い形が決壊して溢れてくるか分かりません。
あれに飲み込まれて墜落してしまうのは、腹上死のようなものです。
いくら気持ちよくても、それはしちゃいけません。

さて、サンジは両手でケーキの表面に触れてみました。
ふか、と優しげな弾力です。
ふわわわ、とサンジの顔が緩むのをゾロがじっと見ています。
頭の後ろで両手を組んで興味のないふりをしていますが、サンジを見てケーキを見て、またサンジを見てケーキを見て、そのうちサンジだけを食い入るように見つめるようになりました。
さきほどサンジに叱られたのが効いています。
一番おいしい食い方しねェとだめだろ!ホットケーキに失礼だろ!こんな・・・こんなほっかほかなんだぞ!
何でもいいから早く食わせろ、とゾロは花の咲いたサンジの顔を睨むようにしています。

サンジは視線に気付くと、ゾロを見やり、ニヤ、と笑いました。
何のニヤリなのかゾロにはさっぱり分かりません。
しゃがんでいたサンジは背を伸ばし、シロップがついた手の平をぺろぺろと一生懸命な速度でなめ終えると、背中にくくりつけていたスコップをじゃーんとゾロの目の前に掲げました。
非常に得意げです。
ゾロは仕方なく頷いて見せました。
分かってる。俺の背中にもスコップはある。お前が用途をいちいち説明して俺の背中に無理矢理しばりつけたスコップがある。
言いたいことは色々ありましたが、ゾロも早くホットケーキが食べたいのです。
サンジの頭が少々軽やかなことなど、大事の前の小事です。

サンジはホットケーキに向かって一度手を合わせ目を閉じると、スコップを斜めに構え、ほす、と先端を差し入れました。スコップとケーキの隙間から、ゆるい湯気が立ち上ります。薄卵色のきれいな生地が見えています。
この時点でサンジはまたも、はああああ、と溜息をついて見惚れています。
しかし、すぐにきりっと表情を引き締めると、ふん、と力を込めてスコップを持ち上げました。
ぽこりと開いた穴からは、さきほどよりも厚い湯気がふうふうと上がり、同時にサンジの身体を甘い香りが包みました。
俺もう死んでもいいかも、とこの上なくうっとりし、サンジは黄金色の焼き色とふかふかのホットケーキでいっぱいになったスコップを、いとおしそうに見つめます。
そして、身体の向きをくるりと変えます。
ゾロを見て、幸せな夢から目を覚ましたときのように、んにー、と笑い、スコップを両手で平行に保ったまま、歩きます。
スコップはサンジの身長ほどの大きさですから、いくらふんわりと軽いホットケーキといえども、軽々とは運べません。
サンジはゾロの腹の辺りにスコップを差し出し、ん、と小さく促しました。
ゾロはまた、サンジを見てホットケーキを見て、サンジを見て、それからホットケーキに手を合わせました。
スコップの中のホットケーキを両手ですくい、あぐ、と口を開けていただきます。
口の中がふかふかで、舌の上が甘くて、焼きたての香りが身体中に満ちるようです。
飲み込んでサンジを見たら、まるで自分がこのホットケーキを作ったみたいに、満足そうに笑っています。
お前も食え、と言うと、うん、お前ももっと食え、と言ってスコップを離しません。
仕方のないやつだ。
ゾロは左右の手の平それぞれにホットケーキをすくって、サンジに近づき、右手をサンジに、左手で自分のおかわりをしました。

これを食べ終わったら、もう少しバターに近づく予定です。
バターの染みている部分は、ちょっとだけ塩の効いた大人の味です。
次のスコップ係は、ゾロの番です。


――――――――――――――――――
そういうゾロサンが、見えた!
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